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【ニュース】連載コラム第7回-白石智哉さん「大震災後の産業復興」

2012年05月17日

「大震災後の産業復興」

「閉塞状況での大震災の発生」

欧州に飛び火した世界的な金融危機は未だ収束を見せていない。日本経済はデフレ・円高に喘ぎ、少子高齢化を背景に需給ギャップは拡大、財政も悪化の一途。経済的には閉塞状況の中で東日本大震災は起きてしまった。

その被害が広範囲であること、農林水産業が主要産業であること、津波により多くの雇用が失われたこと、など過去の自然災害とは違いがある。加えて福島第一原発事故は問題を一層複雑なものにしてしまった。適切な施策がなされなければ、人口は流出し、地域の少子高齢化・過疎化は一層進んでしまうことだろう。東北復興の成否は、低迷する日本経済の縮図ともいえる。

「処方箋は雇用」

最重要の処方箋が「雇用の創出」にあることは議論の余地はないであろう。就業の改善なしには被災者の生活再建はあり得ない。当面、復興需要を背景とした建設業関連の雇用はあるものの、ミスマッチも起こっているようで、一過性のものでしかない。「継続性のある雇用の創出」のために、短期・中長期に分けて施策を考えなければならない。

「既存事業者の支援と起業促進」

東北地方では沿岸部を中心に休業・廃業は依然として増加している。既存事業者の再建は焦眉の急である。短期的には、二重ローンのリファイナンスなどの緊急的な金融支援、零細事業者の共同事業体化などを早急に行わなければならない。

また中長期の観点では、起業の増加を図る必要がある。単に大企業の工場を誘致するというものではなく、地域の「オーナーシップ」によって起業がなされ、周辺業種に波及効果を生み出すこと。基幹産業である農林水産関連に留まらず、様々な分野で起業を推進する仕組みが必要である。

「金融」

金融面では、短期的には債権買取機構や、地元金融機関を中心とした融資が果たす役割は大きい。しかしこれだけではバランスシートの応急措置にすぎないため、あわせてリスクキャピタル(資本)も必要である。資本を厚くすることにより、成長のための先行投資資金も獲得することができ、融資の与信も広がる。また、起業の増加にも資本は欠かせない。いくら中小企業融資拡大を政策的に誘導したとしても、そもそも預金を原資とした金融機関にリスクテイクの限界があるのは当然である。

「PE/VCの機能」

そのような資本の提供者である「投資家」は通常プライベートエクイティ (PE)やベンチャーキャピタル(VC)と呼ばれる。資金の提供以外に以下のような機能がある:

l  事業領域の策定支援(業界構造、業種の成長性、当該企業の強み、などから注力すべき事業領域を決定する)

l  事業計画の策定支援(短期・中長期の計画づくり、数値化)

l  事業計画遂行のための経営資源の提供(人材、事業提携先など)

l  社内体制の整備支援

l  上記のような支援と同時に、事業が計画通りに進んでいるか、適切な手を打っているかなどをモニターする。いわゆるガバナンス機能。

しかしながら、PE/VCは東北復興投資には消極的であろう。機関投資家からの資金を原資とするがゆえに、目的は「リターンの最大化」にある。換言すればPE/VCがリスクテイクし、経営支援を行うのもその目的のためなのである。東北復興に投資する場合、「儲かるのか?」というシンプルな問いに対して経済的な合理性はない。かれらは自由にどこにでも投資できるのだから。

「公的資金」

公的資金としてはいわゆるグループ補助金もある。ただし、あくまで一過性の緊急支援であり、資金使途は設備投資中心、交付も精算払いである。当然、上記のような経営支援もない。

「社会貢献意識の高まり」

今回の大震災では、延べ100万人近くのボランティアが被災地に入った。個人や法人から総額5000億円以上の寄付金が集まった。大震災を契機として、個人や法人のレベルで「社会的貢献」という意識が高まった結果であろう。一方で、寄付を行うに際して、「どのように使われるのか」「その効果はどうなのか」という意識も高まったのではないかと思う。それらの資金は被災企業にも使われたかもしれないが、前述したような経営支援はなく、当然一過性のものとなってしまうからである。しいて言えば「納税がどのように使われているのか」という問いにも通じるところがある。

「ベンチャー・フィロンソロピー・ファンド」

その意味で、東北共益投資基金が「寄付金」を原資として「投資」活動を行っているのは非常に意義深い。資金の出し手は「利益の最大化」ではなく「社会貢献(たとえば雇用の創出)」を企図している一方で、事業への「投資」はPE/VC的な支援手法をとるからである。欧米には「ベンチャー・フィロンソロピー・ファンド」というものがあり、寄付的な性格の資金をファンドとして集め、金銭的利益の最大化ではなく、社会的事業をおこなう会社やNPOに投資・支援をするものがあるが、大震災を機にこのような事業モデルが日本でも出現してきたともいえる。金額は決して大きくないが、いくつかの良い前例をつくることにより波及効果があろう。

「支援のシステム化」

2005年にハリケーンによって甚大な被害を受けたルイジアナ州ニューオリンズ。ルイジアナ復興Foundationは、起業の増加を復興の要ととらえ、投資家の紹介・バックオフィス機能の提供・事業提携先の紹介などのワン・ストップ・サービスを提供してきたそうだ。10万人当たり起業数は、災害前の200人から400人に倍増し全米平均の330人を上回るまでになっている。同地区は災害前よりも人口も増加したとのことだ。

東北地域で起業が増え、雇用が生まれ、人口も増える。資金、経営支援手法、需要をとらえた事業、起業家精神、うまく組み合わせれば可能な世界であると信じる。また個別の事例を増やす一方で、ルイジアナのようにシステム化する機関も必要ではないだろうか。それは、日本経済が低迷から抜け出す大きなヒントになるかもしれない。

白石 智哉(しらいし ともや)

ベンチャーキャピタル、プライベートエクィティファンドなどにて、ファンド設立、投資企業の発掘、投資先企業の事業価値向上など、企業への投資・経営支援の現場で、約25年に亘る経験を持つ。現在は、複数の企業のアドバイザーを兼務しながら、東北共益投資基金の「復興起業キャピタル」に参画。

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