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【ニュース】連載コラム第11回-江上広行さん「気仙沼で出会ったふたつのストーリー」

2014年04月07日

気仙沼で出会ったふたつのストーリー

江上広行(東北共益投資基金 アドバイザー)

先日、自分では想像しえなかったことを実現してしまうということが、本当に誰にでも起こりうることなんだ、ということを知らされる出来事があった。それは、 3月に東北の気仙沼に出かけて行った2日間のあいだに出会ったひとたちのストーリーである。

ひとつめは、ピースジャムというNPO法人のストーリー。気仙沼でブルースバー「ルードジャム」のマスターをしていた佐藤賢さんは、震災直後の行政などの支援体制が整う前に、紙おむつや、粉ミルクなど物資配布を仲間とともに始める。さらに、2011年10月から子供を抱えているため仕事に就けない被災地の母親たちの現実を知り、母親たちを雇用して有機野菜を使ったジャム作りの事業を立ち上げる。

私は公益社団法人シビックフォースからの依頼で、NPO法人化したピースジャムに対して、1年ほど前から事業計画作りのお手伝いをさせていただいている。5月には、託児所とジャム製造施設を兼ねた工房が完成する予定だ。

今回の訪問では、そのピースジャム佐藤さんやスタッフの方々と、昼夜を通して語り合う時間があった。工房の完成を前に「これまでの活動にかけてきた思いや、葛藤を聞かせてほしい」と私がなげかけたからだ。

そのときに、佐藤さんから聴いた言葉は意外なものだった。「本当はコミュニケーションが苦手なんだ」「自分は立派な人間でもなんでもない、クズみたいなもんだよ」。佐藤さんに対してカリスマ性さえ感じていた私は、その言葉に驚きを隠せなかった。しかし、そのあと佐藤さんはこうもいった。「(活動をしているときは)コミュニケーションが苦手なんだってことは、どうでもよくなるんだよね」。

ふたつめは、気仙沼で牛乳販売店を営む千葉清英さん。3年前の震災による津波で、家族や親類の7人を亡くした。唯一無事だった一人息子が野球が大好きで「気仙沼にバッティングセンターを作って」とせがまれた。千葉さんは地元の子供たちに笑顔を届けるために本当に「やってみよう」と決意をした。建設費用を捻出するために、仮設商店街に構える店舗で「希望の飲むヨーグルト」を販売した。全国からも多くの寄付や協力の支援が集まった。
そのバッティングセンターが3月30日にオープンした。ご挨拶にたった千葉さんは、被災後の苦しみのなかで「はじめないことには、はじまらない」との思いの丈を話しておられた。

「ピースジャム」と「フェニックスバッティングセンター」、やりたいと決めたことを本当に始めてしまったひとたちの二つのストーリーが交錯する場所にたちあいながら、私は人間が持つ可能性について深く考えさせられていた。何かをしようとするとき、「自分にはこんなことができるだろうか」という不安や戸惑いを抱えながら、だれもが生きている。それは、私たちと同じように、佐藤さん、千葉さんにもあったものだろう。しかし、誰かのために成し遂げたい将来のイメージがくっきりと浮かび上がったときに、自分のなかにある不安や戸惑いなどはどうでもよいものになっていく。イノベーションといわれるものはそうやって起きていくものなんだと思う。それは誰の身にも起こりうる。あなたにも、私にも。
 

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バッティングセンターにて(真ん中が筆者、右端がピースジャムの佐藤代表)

 江上 広行 (えがみひろゆき)
 株式会社電通国際情報サービス 金融ソリューション事業部 VCFエバンジェリスト
 地域金融機関向けサービスの企画、業務改革のコンサルティング等を行う。
 著書に「『バリューチェーンファイナンス』金融財政事情 2013」など。
 一般財団法人東北共益投資基金 アドバイザー
 中小企業診断士

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